チームビルディングに「共感力」が不可欠な理由とは?~脳科学が証明する「共感型マネジメント」でチーム力を高める3つの方法~

■ なぜ今、チームビルディングに「共感力」が求められるのか
同じ人数、同じ予算、同じミッションを与えられているのに、あるチームは驚くほどの成果を出し、別のチームは停滞する。この差はどこから生まれるのでしょうか。経営者や管理職の方であれば、一度はこの問いに向き合ったことがあるはずです。スキルセットの違い、リーダーの手腕、目標設定の巧拙――さまざまな要因が思い浮かびますが、近年の脳科学研究が示しているのは、意外にもシンプルな答えです。それは「メンバー同士が互いの気持ちを感じ取れているかどうか」、つまりチームの共感力がパフォーマンスを大きく左右するという事実です。
サイボウズチームワーク総研の調査では、高い成果を上げている「グッドチーム」と停滞気味の「これからチーム」の差は、人手不足のような物理的要因よりも、「本音を言いにくい」「受身体質」「上司部下の認識ギャップ」といったメンタルや風土に関わる項目に色濃く表れています。チームビルディングの本質は、制度設計やイベントの実施だけでなく、メンバー間の共感と信頼をいかに育むかにあります。本コラムでは、脳科学の知見を手がかりに、共感がチームの一体感と成果を生み出すメカニズムを読み解き、明日から使えるマネジメントの実践法をお伝えします。

■ ミラーニューロンとリーダーシップ ― 感情がチームに伝染する脳科学的メカニズム
ミラーニューロンとは、他者の行動を観察したときに、あたかも自分がその行動をしているかのように活性化する神経細胞のことです。1990年代にイタリア・パルマ大学のジャコモ・リッツォラッティ教授らが発見し、その後ヒトにも同様のシステムが存在することが確認されました。たとえば、目の前で同僚が笑顔で挨拶するのを見ると、私たちの脳内でもその笑顔を「体験」する神経回路が作動します。「もらい泣き」や「あくびがうつる」といった現象も、このミラーニューロンシステムが関与していると考えられています。
この仕組みがチームビルディングにおいて持つ意味は極めて大きいものです。リーダーが落ち着いた態度で困難に向き合えば、メンバーの脳もその姿勢を無意識にミラーリング(模倣)し、チーム全体に冷静さが伝播します。逆に、リーダーがイライラした表情や否定的な言葉を発すれば、メンバーの脳はその不安やストレスを「受信」し、チーム全体のパフォーマンスが下がります。つまり、リーダーの感情は言葉以上に、脳の神経回路を通じてチームに伝染するのです。これは「感情伝染」と呼ばれる現象であり、リーダーシップ研究の分野でも多数のエビデンスが蓄積されています。チーム力を高めるマネジメントの第一歩は、リーダー自身の感情状態を整えることにあるのです。

■ 「信頼ホルモン」オキシトシンが離職率とエンゲージメントを変える
共感のメカニズムをさらに深く理解するために、もうひとつの重要な脳内物質に目を向けましょう。それが「オキシトシン」です。オキシトシンは「信頼ホルモン」とも呼ばれ、人と人との絆を強化する役割を担っています。クレアモント大学院大学のポール・ザック教授は8年にわたり職場における脳活動を測定し、オキシトシンと組織パフォーマンスの関係を解明しました。研究によれば、従業員同士の信頼度が高い企業では、そうでない企業に比べて離職率が約半分にまで低下し、仕事を楽しんでいると感じる割合が60%も高いという結果が報告されています。信頼関係の構築は、エンゲージメント向上と定着率改善の両方に直結する経営課題なのです。
では、職場でオキシトシンの分泌を促すにはどうすればよいのでしょうか。ザック教授の研究から導かれた要素のうち、特に実践しやすいものを三つ挙げます。第一に、「承認」です。努力や成果をタイムリーに、具体的に認めること。これはオキシトシンの分泌を直接促し、認められた本人だけでなく、それを見ている周囲のメンバーにもミラーニューロンを介してポジティブな影響を及ぼします。第二に、「適度な裁量の委譲」です。自分で決められるという実感は、心理学でいう自己決定理論における「自律性の欲求」を満たし、内発的動機づけを高めると同時に、信頼されているというメッセージとなってオキシトシンの分泌を促します。第三に、「弱さの開示」です。リーダーが完璧を演じるのではなく、困っていることや迷いを率直に共有することで、チームに相互扶助の文化が生まれます。これはGoogleの「プロジェクト・アリストテレス」でも実証された心理的安全性の構築にも直結する要素です。

■ 今日から実践できる!職場の共感力を高める3つの具体的方法
脳科学が示す共感の力は明白ですが、日本企業の現場には独自の課題があります。Great Place To Work® Institute Japanの調査によれば、職場で新たなアプローチを試すことが安全だと感じている従業員は日本では33%にとどまっています。さらに、PwCのグローバル従業員意識調査「希望と不安2025」では、組織の長期目標に対する理解・共感度は非管理職で20〜30%程度と極めて低い水準です。つまり、多くの組織で「共感以前に、そもそも本音を出せない」「組織のビジョンに共感できていない」という二重の壁が存在しているのです。
この壁を乗り越えるために、脳科学の知見を活かした三つの実践方法を提案します。

【方法1】ミーティング冒頭の「感情チェックイン」で共感回路を起動する
「今日の調子はどうですか?」と一言聞くだけで、ミラーニューロンシステムが活性化し、メンバー間の感情的な同期が始まります。リクルートマネジメントソリューションズの「多様性が高いチーム」に関する調査でも、多様なメンバーが成果を出すチームほど、互いの状況や感情を把握する仕組みを持っていることが示されています。短い対話であっても、「この人は今こういう状態なのだ」という情報が共有されることで、脳は相手への共感回路を自然と起動させるのです。

【方法2】「パーソナルストーリーの共有」でオキシトシンを活性化する
数字や論理だけでなく、個人の経験や想いを語る時間を設けることが効果的です。ザック教授の研究では、物語を聞くことでオキシトシンの分泌が促進されることが示されています。「なぜこの仕事を選んだのか」「どんな失敗から学んだか」といったストーリーは、聞く側のミラーニューロンを活性化させ、語る側との間に深い共感と信頼を生み出します。人事白書2025の調査でも、新卒採用で最も重視される能力として「コミュニケーション能力」が約8割を占めましたが、本当に必要なのは話術ではなく、互いの物語に耳を傾ける力ではないでしょうか。

【方法3】「小さな成功体験の共有と祝福」でチームの帰属意識を強化する
チームで達成した成果、たとえそれが小さなものであっても、皆で認め合い喜び合うことが重要です。脳科学的に見ると、達成を共有する瞬間にはオキシトシンとドーパミン(報酬系に関わる神経伝達物質)の両方が分泌され、「このチームでの成功体験」が快感として脳に記憶されます。これが繰り返されることで、チームへの帰属意識が強化され、「このチームのために頑張りたい」という内発的動機づけが自然と育まれていきます。

■ まとめ ― 共感力はチームビルディング最大の武器になる
共感力は、生まれ持った性格の問題ではありません。脳科学が明らかにしたように、ミラーニューロンは誰の脳にも備わっており、オキシトシンの分泌は環境やマネジメントの工夫次第で促進できます。つまり、共感力はトレーニング可能な「スキル」であり、組織として意図的に育てるべき「戦略的資産」なのです。
まずは今週のミーティングで、冒頭に「今日の調子はどうですか?」と聞いてみてください。あるいは、メンバーの小さな貢献に対して具体的な言葉で「ありがとう」を伝えてみてください。その一言が、相手の脳にオキシトシンを届け、チームの信頼という目に見えない資産を積み上げていきます。数値化しにくいからこそ後回しにされがちな「共感」ですが、脳科学のエビデンスは、それがチームの生産性、定着率、そしてイノベーションを左右する最も強力な経営資源の一つであることを証明しています。あなたのチームビルディングに、共感力という最大の武器を取り入れてみてはいかがでしょうか。

「10年定着人材』採用成功セミナー
24時間受付・スマホからもOK 無料相談WEB予約24時間受付・スマホからもOK 無料相談WEB予約