採用活動は「優秀な人材を見極める場」として重視されがちですが、実はその瞬間、社員の定着の未来も決まっていることをご存じでしょうか?
面接時に交わす最初の言葉、受け取る印象、そこにこそ「辞めない社員」を育むヒントが隠されています。本コラムでは、心理学の視点から第一印象と定着率の知られざる関係を解説します。
■ 初頭効果とは何か?
人は、最初に得た情報を強く記憶し、その後の判断にも影響を受ける。この現象は心理学で「初頭効果」と呼ばれています。
面接の場面でも同じことが起きています。求職者が面接会場に入り、数分のやり取りを通じて「この人は誠実そう」「前向きで信頼できそう」と感じた場合、その印象は入社後の評価や関係性にも影響を与え続けます。
反対に、「受け身な印象」「準備不足な態度」を最初に与えてしまうと、その後の努力ではなかなか覆せません。この第一印象は、採用可否だけでなく、入社後の信頼形成や育成のしやすさ、そして最終的な定着にも深く関わります。
さらに、第一印象による影響は、面接官だけでなく求職者側にも及びます。求職者も、面接を通じて「この会社は信頼できるか」「自分に合っているか」を無意識のうちに判断しています。ここでポジティブな印象を持てるかどうかが、入社後のエンゲージメントや働き続ける意欲に大きく関わります。
■ 第一印象が“心理的契約”を形成する
第一印象は、企業と社員の間に生まれる「心理的契約」の起点でもあります。
心理的契約とは、雇用契約書には明記されない、暗黙の期待と信頼関係のこと。求職者は面接時に、「この会社は私を大切にしてくれるか」「成長できる環境か」を無意識に感じ取り、心理的契約を結びます。
もし、面接で受け取った第一印象がポジティブであれば、入社後に困難があっても「きっと会社は自分を支えてくれる」と信じ、粘り強く働くでしょう。逆に、面接時に違和感や不安を感じた場合、それは入社後の早期離職につながりかねません。
この心理的契約は、入社後に本人の期待と実際の職場環境にギャップが生じた場合、最も早く壊れてしまうものです。そのため、採用面接時の第一印象が、長期的な信頼関係の土台になることを忘れてはいけません。
第一印象は無意識のうちに「この会社で安心して働けそうか」「この上司と信頼関係が築けそうか」といった判断材料になります。そしてこの安心感や信頼感こそが、仕事に対する主体性や成長意欲を引き出し、離職防止につながっていくのです。
■ 企業が第一印象を定着につなげるために
・第一印象の重要性を理解したうえで、企業ができることは3つあります。
1.採用プロセスの透明性を高める
・企業文化や働き方を率直に伝え、入社後のギャップを減らす。
2.面接官の“印象形成力”を磨く
・面接官は会社の「顔」。丁寧で誠実なコミュニケーションを心がける。
3.候補者の内面に目を向ける
表面的な印象ではなく、価値観や仕事への姿勢を重視する。
加えて、面接時に「この会社は求職者を一人の人として尊重している」というメッセージを発信することも欠かせません。それが求職者の安心感や納得感につながり、入社後のエンゲージメントを高める土台となります。
また、面接後のフォローアップや内定者フォローの中でも、第一印象で得た信頼感を継続的に育むことが重要です。最初の出会いの印象が良くても、その後の対応が雑であれば、せっかくの心理的契約は簡単に崩れてしまいます。採用活動全体を通じて、求職者との関係づくりを意識することが、長期的な定着につながります。
【まとめ】
第一印象は「採用選考の合否」にとどまらず、「この会社で働き続けたい」と社員が感じられるかどうかにも直結します。
心理学の視点から見ても、初頭効果と心理的契約は、採用面接時の印象がその後の定着率に影響を与えることを示しています。
求職者と企業が最初に交わす一言、一瞬の空気感。その小さな“出会いの質”が、10年後の組織を左右します。
採用活動は、単なる「人を選ぶ場」ではなく、「人と企業が長く共に歩むための第一歩」。その視点を持つことが、これからの時代に必要な“採用力”と言えるでしょう。