「この会社で働けてよかった」
「もっとここで成長したい」
そうした“働きがい”を社員が感じている組織は、自然と定着率が高く、生産性も向上しています。反対に、「やらされ感」や「評価されていない」という想いが積み重なる職場では、優秀な人材ほど早く去ってしまいます。
近年注目されているのが、社員の“働きがい”と深く結びついたエンゲージメント(組織への貢献意欲)の向上です。エンゲージメントが高い組織は、業績や定着、チームの一体感にも好影響をもたらすことが、多くの調査で明らかになっています。
では、社員が“働きがい”を感じ、エンゲージメントが高まる職場をつくるには、具体的に何を意識すればよいのでしょうか?本コラムでは、3つの視点からそのヒントを探ります。
1.「自分の仕事が意味ある」と感じられるか?
人は、単に「作業をこなすため」ではなく、「何かに貢献している」「誰かの役に立っている」と感じたときに、やりがいや使命感を持って仕事に取り組めるものです。
たとえば、製造業の現場で働く社員が、自分が携わっている部品が「最終的には救急車の一部になり、命を助けている」と知った瞬間、仕事に対する意味づけは大きく変わります。
この“意味づけ”を伝えるのは、職場の上司やマネジメント層の重要な役割です。単なる業務指示だけでなく、「この仕事がどんな人に、どう価値を届けるのか」「チームにどう貢献しているのか」を、日々のコミュニケーションの中で意識的に伝えていくことが求められます。
2.「認められている」「必要とされている」と感じられるか?
働きがいに直結するもう一つの要素が、承認・感謝・フィードバックの文化です。人は誰しも「見られている」「理解されている」と感じることで、安心し、さらに力を発揮できるようになります。
特に、日本の職場では「できていて当たり前」という風潮が根強く、成果や成長を言葉で伝える文化が弱い傾向にあります。
たとえば
・「最近、部下が資料を作るスピードが上がっている」
・「先月の営業報告、ロジカルで分かりやすかった」
といった、具体的な行動や変化を承認するフィードバックを取り入れることで、社員は「自分の努力がちゃんと届いている」と感じ、自然とやる気が湧いてきます。
また、「ありがとう」「助かったよ」といった日常の感謝を口に出すことも、小さなようで大きな影響があります。こうした心理的な満足感の積み重ねが、エンゲージメントを高める下地になります。
3.「成長できる」「期待されている」と実感できるか?
働きがいは、「今が心地よい」だけでは成り立ちません。未来への希望、すなわち、「ここで自分は成長できる」「これからも活躍できる」という実感があることで、社員は長く働きたいと思えるようになります。
そのためには、
・キャリアパスが見える化されている
・新しい仕事を任せてもらえる
・定期的に1on1などで成長の対話がある
といった「成長への仕掛け」が職場に組み込まれている必要があります。
注意したいのは、形式的な人事制度や評価表だけでなく、日々の会話の中で“あなたに期待している”というメッセージを伝えること。これが本人の自信となり、行動変容や挑戦意欲を後押しします。成長の実感があれば、多少の困難や負荷も乗り越えやすくなり、結果的に離職防止にもつながっていきます。
働きがいは、「特別な制度」ではなく「日常の積み重ね」で生まれる
働きがいを高めるというと、大きな制度変更や特別な研修などを思い浮かべるかもしれません。
しかし実際には、
・意味を伝える
・承認する
・成長を支援する
といった、日常の小さなコミュニケーションの質が、働きがいをつくり、エンゲージメントを育てるのです。
もちろん、企業ごとに文化も背景も違います。大切なのは、「この職場で働きたい」「ここにいて良かった」と社員が感じられるような土壌を整えること。
エンゲージメントは現場の空気感や、日々の言葉に必ず表れます。今日からできる小さな一歩を積み重ねていくことが、組織を強く、しなやかにしていく鍵になるのです。