「この会社にいても、将来が見えないんです」
ある若手社員が、退職面談でつぶやいた言葉です。
給与や人間関係に大きな不満があったわけではありません。ただ、自分がこのまま働き続けて、どうなれるのかが見えなかった。その“見えない不安”が、離職の決定打になったのです。
このような退職の背景には、「人事制度が機能していない」という共通点があります。
形だけの制度がある企業では、評価やキャリアの不透明さが社員の不信感を招き、やがて定着率の低下につながります。
逆に、定着率の高い会社には、制度を通して“安心と希望”を感じられる設計があります。
本記事では、そんな「辞めない会社の人事制度」に共通する5つのポイントをご紹介します。
1.評価制度が「行動」と「姿勢」に紐づいている
定着率の高い会社では、「成果」だけでなく、「どのように取り組んだか」も評価の対象になっています。
たとえば、チームへの貢献、改善提案、周囲への気配りといった日々の行動や姿勢が、評価基準に含まれています。
このような制度設計があると、社員は「見てもらえている」「自分の努力は無駄ではない」と実感でき、納得感のある評価が実現します。
また、フィードバック面談の機会も設けられており、上司との対話を通じて今後の成長指針が得られるようになっています。
2.キャリアパスと報酬制度が「未来」を描ける
「この会社にいれば、自分はどう成長できるのか」
この問いに答えられない組織では、人は長く働けません。
定着率の高い企業では、等級や役職ごとの役割・スキル・報酬が明示され、社員が将来像を描きやすくなっています。
特に若手社員にとっては、自分の成長イメージがクリアに見える環境が安心感につながります。
報酬制度についても、「何を頑張ればどう報われるのか」が明確であることが、定着意欲を後押ししています。
3.制度と「心理的安全性」が連動している
制度は“仕組み”ですが、社員が辞める理由の多くは“感情”です。
制度が整っていても、日々の関係性に安心感がなければ、制度は機能しません。
定着率の高い職場では、人事制度とあわせて、1on1ミーティングやフィードバックの仕組み、承認の文化といった、“感情を支える習慣”が制度の裏に設計されています。
制度と感情を切り離さず、両輪で運用することが、離職防止において極めて重要です。
4.役割定義が明確で「期待値のズレ」が起きない
役職やポジションによって求められることが不明確だと、「頑張っているのに評価されない」と感じる社員が出てきます。
定着率の高い組織では、職務・等級ごとの期待値や責任範囲が明確になっており、社員自身が自分の立ち位置と役割を理解できます。
この明確さが、評価への納得感やコミュニケーションの質を高め、マネジメントの信頼感を育てる基盤にもなっています。
5.制度が「運用」されている
制度は作って終わりではありません。むしろ重要なのは、「制度が現場で活かされているかどうか」です。
制度が存在していても、説明されない、使われない、改善されない状態であれば、それは社員の信頼を損なう要因にもなります。
定着率の高い会社では、制度の内容を丁寧に説明し、現場への落とし込みを行っています。
あわせて、管理職向けの研修や制度活用のガイドライン、現場からのフィードバックを受け止める改善体制もあり、「使われる制度」として制度自体が信頼を獲得しています。
■まとめ:制度は“定着支援のエンジン”になる
人事制度は、社員を管理するためのルールではなく、社員が安心して働き、成長し続けるための“土台”です。
特に、採用が難しくなっている現在、制度を整えることは“人を辞めさせない”という守りの発想ではなく、“人が輝き続ける職場づくり”の攻めの戦略でもあります。
「人事制度を見直したら、離職が減った」
そんな組織は、少しずつですが確実に増えてきています。
定着率向上のカギは、制度と感情、両方の“設計”にあるのです。