「人材がなかなか定着しない」
「採用しても3年以内に辞めてしまう」
このような悩みを抱える企業が増えています。
そんな中、社員の定着率が高い会社には、ある共通点があります。それが、“ありがとう”が自然に交わされていることです。
感謝の言葉は、一見ただのマナーに見えるかもしれません。
しかし、心理学的に見れば、“ありがとう”は人の心に働きかけ、組織に深い影響を与える「感情のスイッチ」です。
今回は、職場に“ありがとう”があふれることで、なぜ定着率が高まるのかを、心理学・感情・組織の3つの観点から掘り下げていきます。
理由①:感謝は「存在の承認欲求」を満たす
人には誰しも「自分を認めてほしい」という承認欲求があります。
これは心理学者マズローの欲求5段階説においても、人間の基本的な動機のひとつとされています。
“ありがとう”という言葉は、単なる礼儀ではなく、「あなたの行動や存在が価値あるものだ」と伝えるシグナルです。
この言葉を受け取った人は、「自分は役に立っている」「ここにいていいんだ」と感じることができます。
特に日本企業では、努力や結果が当たり前とされがちで、褒めたり感謝を伝える文化が希薄なケースも少なくありません。その中で、“ありがとう”が交わされる職場は、社員の「居場所感」や「自分の価値」を実感しやすくなります。
つまり、感謝は社員の自己肯定感と安心感を育てる土壌となり、長く働き続ける動機に直結していくのです。
理由②:感謝は「感情のポジティブ連鎖」をつくる
感謝の言葉には、周囲にポジティブな感情の連鎖を起こす力があります。
心理学ではこれを「情動感染」と呼びます。ポジティブな感情は、人から人へと波紋のように広がる性質を持っています。
たとえば、ある社員が「ありがとう」と言われたとき、うれしさや満足感が心に残ります。そしてその感情は、今度は別の人への配慮や思いやりとなって表れます。このように、感謝は組織内で良い感情の循環を生み出すのです。
この感情の循環は、信頼や協力の文化を育て、職場全体の雰囲気を明るく、協調的にします。そして何より、ネガティブな感情(不満、孤独、疑念)が蓄積されにくい状態をつくることが、離職の抑止力となります。
理由③:感謝は「人と人との“つながり”」を強化する
職場における“人間関係”は、離職理由のトップクラスに挙げられます。
そしてその背景には、「人とのつながりの希薄さ」があります。
心理学者バウマイスターらの研究によれば、人間には「所属欲求」が本能的に備わっているとされます。この欲求が満たされないと、孤独感や疎外感が生まれ、組織から心が離れていってしまうのです。
“ありがとう”という言葉は、まさにこのつながり欲求を満たすツールです。
相手を認識し、言葉をかけ、関係性を築く。その積み重ねが、職場に「誰かとつながっている感覚」を生み、離職を思いとどまらせる“心の絆”になります。
特に近年はリモートワークや非対面コミュニケーションの増加により、社員同士のつながりが希薄になりがちです。だからこそ、シンプルで温かな言葉である“ありがとう”が、つながりを回復させる鍵となるのです。
まとめ:感情の循環が、定着率を変える
制度や仕組みの改善も大切ですが、最も本質的な定着の土台は「感情」にあります。
“ありがとう”は、社員の承認欲求を満たし、ポジティブな感情を循環させ、つながりを深めるという、心理学的にも非常に強力な言葉です。
それはまさに、「人を辞めさせない職場」の共通言語であり、感情マネジメントの第一歩とも言えるでしょう。
今、社員に「ありがとう」を届けられているでしょうか?
一人ひとりがその言葉を発することで、職場の空気は変わり、定着率も確実に変わっていきます。