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  4. ベテラン社員が新しいやり方に反対するのはなぜ? ~中小企業の社長が実践したい「抵抗を味方に変える」4つのコツ~

ベテラン社員が新しいやり方に反対するのはなぜ? ~中小企業の社長が実践したい「抵抗を味方に変える」4つのコツ~

新しい勤怠アプリを入れよう、受注の管理表を共有のものに変えよう。そう決めて朝礼で切り出したところ、いちばん頼りにしているベテランの顔がふっと曇った――。社員30人ほどの会社を経営していると、こんな場面に心当たりのある社長は多いのではないでしょうか。「これまでのやり方で困っていない」「現場を知らない人が決めたことだ」と言われると、つい「なぜ分かってくれないのか」と思ってしまいます。
ところが最近の研究や報道を読むと、変化への抵抗は、性格や意欲の問題というより、人の脳に備わった自然な反応だと分かってきました。この記事では、その仕組みを平易にひもときながら、小さな会社でも今日から実行できる、反対意見を味方に変える伝え方と進め方をお伝えします。

ベテラン社員はなぜ新しいやり方に反対するのか?変化への抵抗の理由とは
まず押さえておきたいのは、反対する社員は「やる気がない人」とは限らないということです。むしろ長年の経験があり、責任感の強い人ほど、「今のやり方のどこにリスクがあるか」を肌で知っているものです。
脳科学の世界では、人の脳は急な方針転換や先の見えない状況を「脅威」として受け止めやすいといわれています。これは良い変化であっても起こります。脳科学者デビッド・ロック氏が提唱した「SCARF(スカーフ)モデル」では、脳が強く気にする要素として「確実性(この先どうなるかが分かること)」などが挙げられています。つまり、「明日からやり方が変わる」と聞いた瞬間、脳は「先が読めない、危ない」と警報を鳴らしてしまうのです。警報が鳴ると、不安を感じる脳の部位(扁桃体)が働いて、冷静に考える部分の働きが落ちるとされています。反対意見が感情的に聞こえるのは、こうした仕組みが背景にあるからかもしれません。
心理学でいう「現状維持バイアス」も関わっています。これは、今のままを選びたくなる人間のクセのことです。新しいやり方のメリットよりも、慣れたやり方を失う不安のほうを大きく感じてしまいます。さらに、ベテランほど「自分の経験や立場が否定されるのでは」という思いも重なります。Forbes JAPANが紹介した記事(2026年8月)でも、抵抗の背景として、未知への恐れ、コントロールを失う感覚、自分の能力や立場への不安、負担が不公平だという感覚などが挙げられていました。
ですから、社長に求められるのは「説得して黙らせる」ことではありません。「この人は何を失うのが怖いのだろう」と考えることが、最初の一歩になります。

「賛成」と言いながら動かない?賛同と行動のギャップを知る
もうひとつ、中小企業の社長が悩みやすいのが、会議では「いいですね」と言っていた社員が、実際には前のやり方を続けているというケースです。
大規模な組織変革を率いたリーダーたちへの聞き取りをもとにした研究では、社員は変革の目的には賛同していても、具体的な日々の業務の変更には抵抗することがある、と指摘されています。賛同は「将来こうなったら良い」という長期的なメリットから生まれ、抵抗は「明日の仕事が回らなくなったらどうしよう」という短期的な心配から生まれます。そして、目の前の心配のほうが、行動には強く影響するというのです。
これは、私たちの日常にもよく当てはまります。ダイエットに賛成でも、目の前のケーキは食べてしまう。それと同じで、頭では納得していても、毎日の仕事のなかでは慣れたやり方に戻ってしまうのです。この研究は大企業の経営層を対象にしたものですが、「頭の賛成」と「体の行動」はずれるという点は、社員10人の会社でも変わらないでしょう。
だからこそ、「分かってくれたはず」と思い込まず、「明日からの自分の仕事がどう変わるか」まで具体的に伝え、動き出せているかを確かめる必要があります。

反対を減らす伝え方のコツ①:「変わること」と「変わらないこと」を最初に示す
脳が警戒するのは「先が読めない」ことですから、まず確実なことを増やしてあげるのが効果的です。新しいやり方を発表するときは、変わる点だけでなく、変わらない点も一緒に伝えましょう。
たとえば「受注管理は共有の表に変えます。ただし、お客様への対応の仕方や、あなたの担当先は変わりません。覚えるまでは今の紙も並行して使って大丈夫です」と伝えるだけで、不安はかなり小さくなります。「いつまでに」「どこまで」「困ったら誰に聞けばよいか」の3点をセットで示すと、さらに安心感が増します。お金は一切かかりません。社長が事前に紙1枚にまとめておくだけでできます。

コツ②:まず小さく試して「できた」を作る進め方
全社一斉に切り替えると、うまくいかなかったときの混乱が大きく、反発も強まります。おすすめは、1人か1つの業務だけで「お試し期間」を設けることです。期間は2週間程度で十分です。
人は「自分で試して大丈夫だった」という経験をすると、不安が急速にやわらぎます。社長が「うまくいかなければ元に戻す」とあらかじめ約束しておくことも大切です。逃げ道があると分かっているだけで、脳の警戒は下がります。試した人の「意外とラクだった」「ここは使いにくかった」という声は、全員に説明するときの一番の説得材料にもなります。

コツ③:ベテランを「評価する人」でなく「一緒につくる人」にする方法
反対しそうな人ほど、決まった後に説明するのではなく、決める前に相談するほうがうまくいきます。「このやり方で、現場として一番心配なところはどこですか」と、社長のほうから先に聞いてみましょう。
心理学では「自分で決めたことには従いやすい」という性質があるとされています。自分の意見が反映されたやり方は「やらされるもの」から「自分たちのもの」に変わるからです。ベテランの指摘は、実際に現場の落とし穴を言い当てていることも多く、計画の質を高めてくれます。たとえば「新しい表の入力項目は、あなたの目で見て足りないものはありますか」と頼めば、ベテランは「反対者」から「設計者」へと立場が変わります。
ここで大切なのは、出てきた意見を全部採用することではありません。採用できなかった意見にも「ここはこういう理由で今回は見送ります。ありがとう」と理由を返すことです。聞いてもらえたという実感が、納得の土台になります。

コツ④:不安を言葉にして受け止める――「名前をつければ落ち着く」の活用法
先ほどのForbes JAPANの記事では、「感情に名前をつけると、脳の反応が和らぐ」という脳科学の知見も紹介されています。2007年の研究(マシュー・リーバーマン教授)が知られており、「name it to tame it(名づけて、なだめる)」と呼ばれることもあります。つまり、モヤモヤした不安を言葉にするだけで、気持ちが少し落ち着くということです。
現場でできることはとても簡単です。「新しいやり方になると、正直、不安になりますよね」と社長自身が先に口にしてしまうのです。さらに「私も、うまくいくか不安なところがあります」と自分の気持ちを添えると、社員も本音を話しやすくなります。反対意見が出たら、「そう思うんですね」とまず受け止めてから、「どの部分が一番引っかかりますか」と聞き返してみてください。気持ちを受け止めてもらえると、人は意外なほど柔軟に話を聞いてくれるものです。
なお、ギャラップ社の「2026年版グローバル職場環境レポート」では、世界の従業員エンゲージメントが20%と、2020年以来の最低水準だったとされています。変化の多い時代だからこそ、社員が変化についていけているかどうかを気にかける会社が、社員の意欲を保つ会社になっていくでしょう。

社長が今日から始められる3ステップ――お金をかけない変化の進め方
最後に、明日からすぐに取り組める流れをまとめます。ステップ1は、新しいやり方の「変わる点・変わらない点・困ったときの相談先」をメモ1枚に書き出すことです。ステップ2は、反対しそうな人に、発表の前に個別で相談することです。「一番心配なのはどこですか」と聞くだけで構いません。ステップ3は、2週間の試行期間を決め、終わったら振り返りの時間を15分とることです。
この3つはどれも費用がかからず、社長ひとりで始められます。大きな改革を一度に進めようとせず、小さな試行を重ねていくほうが、結果的に速く、そして社員との関係も壊さずに済みます。

まとめ:まず「どこが心配ですか」から始めよう
新しいやり方への反対は、社員の「やる気のなさ」ではなく、人の脳が持つ自然な警戒反応であることが多い――この見方に変えるだけで、社長の向き合い方は大きく変わります。反対意見は、現場が何を心配しているのかを教えてくれる貴重な情報でもあります。
変わることと変わらないことを示し、小さく試し、ベテランに相談し、不安を言葉にして受け止める。この積み重ねが、社員の「やらされ感」を「自分たちの取り組み」に変えていきます。さて、あなたの会社で今、変えたいのに止まっていることは何でしょうか。まずはいちばん反対しそうな人に「どこが心配ですか」と声をかけるところから、始めてみませんか。

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