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  4. なぜ社員のやる気は長続きしないのか? ~カギは毎日の『小さな前進』にある~

なぜ社員のやる気は長続きしないのか? ~カギは毎日の『小さな前進』にある~

はじめに
「朝礼で気合いを入れ直したのに、来週にはまた元どおり」「ボーナスを少し上げたのに、社員の表情が変わらない」。社員10人、30人の会社の社長なら、一度はこんなため息をついた経験があるのではないでしょうか。
やる気を出してもらおうと、励ましたり、目標を掲げたり、時にはお金を使ったりしても、なかなか長続きしない。実は、社員のやる気を左右するのは、大きな目標や特別な報酬よりも、毎日の仕事の中にある「小さな前進の実感」だといわれています。
今回は、お金をかけずに、社長が明日からでも始められる、社員のやる気の高め方を3つご紹介します。

社員のやる気が続かない本当の理由とは? ― 熱意ある社員は数%という現実
まず、数字を見てみましょう。米国の調査会社ギャラップが行っている世界規模のエンゲージメント調査(仕事への熱意や会社への思い入れの度合いを測る調査)では、日本で「熱意あふれる社員」と分類される人の割合は、5〜6%程度と報告され、調査対象国の中でも最下位クラスとされてきました。調査方法や質問の仕方に違いがあるため、この数字をそのまま鵜呑みにする必要はありません。それでも、多くの日本の職場で「なんとなく指示されたことをこなしている」という状態の社員が多いことは、社長の皆さんも肌感覚でお持ちではないでしょうか。
では、なぜやる気は続かないのでしょうか。よくある原因は、社長の側が「やる気は本人の性格や根性の問題だ」と考えてしまうことです。しかし、心理学の研究では、やる気は性格よりも「環境」でかなり決まることがわかってきています。
その代表が、ハーバード・ビジネス・スクールのテレサ・アマビール教授らが提唱した「進捗の法則」です。難しそうな名前ですが、中身はとてもシンプルで、「人は、意味のある仕事で前に進んでいる実感を持てたときに、最もやる気が出る」というものです。アマビール教授らは、多くの社員に毎日仕事の日記をつけてもらい、その内容を分析しました。すると、社員が「いい一日だった」と感じる日に共通していたのは、大きな成功ではなく、「少しでも仕事が前に進んだ」という感覚だったのです。
つまり、社員のやる気が続かない会社では、社員が頑張っていないのではなく、「自分の仕事が前に進んでいるのかどうか、本人にも周りにも見えていない」ことが多いのです。

中小企業の社員のやる気を高める方法① 仕事を「小さく区切って」ゴールを近くする
1つ目は、仕事を小さく区切ることです。
たとえば、「今期の売上を1割伸ばそう」という目標は、社長にとっては明確でも、現場の社員にとっては遠すぎて、自分が今日何をすれば近づくのかが見えません。ゴールが遠すぎると、人は「どうせ無理だ」と感じて、手が止まってしまいます。
ここで役立つのが、脳の「報酬系」という仕組みです。報酬系とは、何かを達成したときに、脳が「やった!」という快感を生み出して、もう一度やりたいという気持ちを作る仕組みのことです。この快感は、大きな成功だけでなく、小さな達成でも生まれます。つまり、仕事を小さく区切って、こまめに「できた」を作ってあげれば、脳が自然にやる気を補充してくれるのです。
中小企業で実践するなら、こんなやり方があります。
まず、社員に任せる仕事は、「1週間以内に終わる大きさ」に区切って渡します。「新規顧客を開拓して」ではなく、「今週は、過去に見積もりを出して止まっているお客さまの中から5社に電話をしてみて」という具合です。ゴールが近ければ、社員は迷わず動けますし、終わったときに「できた」という実感を得られます。
社長一人で全員の仕事を区切るのが大変なら、最初は一番やる気が落ちている社員1人だけで構いません。お金も時間もほとんどかからず、来週から試せます。

中小企業の社員のやる気を高める方法② 「進み具合」を見える場所に出す
2つ目は、進み具合を目に見える形にすることです。
心理学には、「ツァイガルニク効果」と呼ばれるものがあります。人は、終わっていないことや、途中になっていることのほうを強く覚えていて、気になってしまう性質がある、という意味です。この性質は、使い方しだいで、仕事を最後までやり切る力に変わります。
たとえば、ホワイトボードや壁に、今月やるべき仕事を付箋で貼り出して、「やること」「やっている」「終わった」の3つの列に分けてみてください。終わった付箋が右の列に増えていくのが、誰の目にも見えるようになります。ITツールは必要ありません。100円ショップの付箋とマジックがあれば十分です。
大切なのは、「管理するため」ではなく、「進んでいることを本人が実感するため」に使うことです。社長がこの付箋を見て、「今週は5枚も動いたな」と一言かけるだけで、社員は「自分の仕事を見てもらえている」と感じます。逆に、進んでいない付箋を責めるために使うと、一気に逆効果になります。見せる目的を間違えないようにしてください。
社員10人程度の会社なら、事務所の一角にこうした「進み具合のボード」を作るだけで、お互いの仕事の様子が自然にわかります。それが、同じ職場で働く仲間への声かけにもつながっていきます。

中小企業の社員のやる気を高める方法③ 前進したその日に、具体的に認める
3つ目は、前進したことを、その日のうちに具体的に認めることです。
やる気を支えるうえで、もっとも力を発揮するのが、上司からの「見てもらえている」という実感です。しかし、社長のほうは、「ありがとう」「頑張ってるね」と声をかけているつもりでも、社員にはなかなか響いていないことがあります。その理由は、言葉がぼんやりしているからです。
たとえば、「頑張ってるね」ではなく、「昨日、お客さまへの見積書を、期限より1日早く出してくれたね。おかげで先方から好印象だったよ」と伝えてみます。何が、どう良かったのかまで言葉にするのがコツです。具体的に伝えると、社員は「自分のあの行動が、会社の役に立ったんだ」と理解できます。この「自分の仕事に意味がある」という感覚が、やる気を長続きさせる燃料になります。
タイミングも重要です。脳は、行動の直後に褒められると、「この行動は良いことだ」と結びつけて覚えやすくなります。月に一度の面談でまとめて伝えるよりも、その日のうちに一言伝えるほうが、はるかに効果的です。社長が夕方の10秒で声をかけるだけ、あるいは一言メッセージを送るだけでも十分です。
もう一つ、小さなことですが効果的なのが、うまくいかなかった日の対応です。進まなかったときに、「なぜできていないんだ」と問い詰めるのではなく、「何がじゃまになっている? 私が手伝えることはある?」と聞いてあげてください。前進を妨げている原因を一緒に取り除いてあげることも、立派な進捗の支援です。

社員10人の会社で試すなら? 1か月の進め方と注意点
ここまでの3つを、社員10人ほどの会社でどう始めるかを、イメージしやすい形にしてみます。
最初の週は、付箋のボードを事務所に置くだけにします。全員に何かを求める必要はありません。2週目から、社長が朝の5分で、その日の「小さな区切り」を1人ひとりと確認します。3週目以降は、夕方に10秒だけ、前進したことを具体的に伝えます。これだけで、1か月もすれば社内の会話が「今日は何が進んだか」という前向きなものに変わってきます。
注意したいのは、進捗を「監視」に使わないことです。社員が「またチェックされている」と感じると、やる気は逆に下がってしまいます。ボードはあくまで、本人が自分の前進を確かめるための道具です。遅れている付箋を指さすのではなく、進んでいる付箋を見つけて声をかける、という順番を守ってください。
また、区切った仕事が小さすぎて、かえって作業的になってしまうこともあります。その場合は、「この仕事が終わると、お客さまや仲間にどんないいことがあるか」を一言添えてください。仕事の先にある意味が見えると、小さな前進が、より大きな手応えに変わります。

まとめ
社員のやる気は、気合いや根性、特別なご褒美で引き出すものではなく、毎日の仕事の中で「前に進んでいる」と実感できる環境によって、自然に育っていくものです。今回ご紹介した3つ、つまり「仕事を小さく区切る」「進み具合を見える場所に出す」「前進した日にその場で具体的に認める」は、いずれも大きな予算も特別なITツールも必要ありません。
まずは今日、一番やる気が落ちているように見える社員に声をかけて、「今週、少し前に進んだことは何かな?」と聞いてみてください。その答えに耳を傾け、具体的に認めるところから、職場の空気は少しずつ変わっていきます。あなたの会社の社員は、今、自分の仕事が前に進んでいると感じられているでしょうか。

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